『死霊 七章《最後の審判》』三(閑人亭日録)

《 おお、「自己存在」! さて、いま、ここに、ようやく在ることになったその「自己存在」こそは、長い長い驚くべきほど長い「物質連鎖」の過酷な分離と結合のなかで積みに積みあげられつづけてきた重い重い「存在の苦悩」にその何かを絶えず圧しつぶされな…

『死霊 七章《最後の審判》』二(閑人亭日録)

弾劾はサッカ(釈迦)へ向けられる。そして。《 おお、イエスに食われてイエスとなったガリラヤ湖の大きな魚よ、「説きおおせなかった」釈迦をこそ弾劾すべきであった小さなチーナカ豆よ、「死のなかの生」から生物史はじめて不毛の荒地の高い枯れた樹へと向…

『死霊 七章《最後の審判》』(閑人亭日録)

埴谷雄高『死霊 七章《最後の審判》』講談社 一九八四年一一月二六日 第一刷発行、前半を読んだ。復活したイエスへの弾劾が延々と述べられる。《 いいかなイエス、死を怖れて、新しい生へと『復活』したところのそのお前がまだ飢えつづけて、まず真っ先の振…

書類の補充(閑人亭日録)

確定申告の提出書類に不備があり、郵便局、銀行、不動産屋と巡り、会計事務所に電話。書類の補充が片付き、やれやれ。くた~。あとは休息。オツムが過熱。恢復途上の身にこたえるわ

『死霊 六章《愁いの王》』(閑人亭日録)

一日冷たい雨。埴谷雄高『死霊 六章《愁いの王》』講談社一九八一年九月八日 第一刷発行を読んだ。深い夜の場面から一転、晩夏の海に近い河に浮かぶボートでの出来事が綴られる。間奏曲のよう。

和のミニマルアート(閑人亭日録)

晴天。風が少し強い。冷たい。洗濯物を慎重に干す。回復途上の身。しみじみ。二週間ぶりに掃除機を使う。ゆっくり動かす。和室の二部屋だけで終了。珈琲で一休み。床の間に掛けてあるA4版の厚板の下半分を藍染めの液に漬けた作品を鑑賞。藍染めの試作に使…

『風一つ』(閑人亭日録)

冷たい雨の一日。ぼんやりと過ごす。病院では無為にすごすことがつらかったが、自宅ではそんなことはない。狭い書庫で三方を本に囲まれて背文字を読んでいるだけでこころが和む。・・・しかし、探している本が見つからない。小体なライト・ヴァースのアンソ…

帰還(閑人亭日録)

7日昼前救急搬送されて入院した病院を退院、帰宅。入院中に埴谷雄高『死霊』講談社一九七六年四月二十二日 第一刷発行を読了。第一章から五章を収録。病室で退屈と鬱屈を紛らわすにはうってつけ。無窮の夢魔の世界を引き摺り回される印象。好悪が分かれるだ…

『死霊』二(閑人亭日録)

以下、七日の日録。 埴谷雄高『死霊』を初めて読んだのは、『全集・現代文学の発見 第七巻 存在の探求 上』学藝書林 昭和四十二年十一月十五日 第一刷発行 でだった。その本はどこかへ行って、本棚にはきれいな状態の翌年の二月一日発行がある。挟み込みの小…

『死霊』(閑人亭日録)

埴谷雄高『死霊』講談社一九七六年四月二十二日 第一刷発行を少し再読。「自序」にこんな文。《 私はついにせめて一つの観念小説なりともでっち上げねばならぬと思い至った。やけのやんぱちである。けれども、その無謀な試みの如何に嬴弱なことであるだろう…

来し方、この先(閑人亭日録)

寒々とした雨の暗い一日。用もなく、来し方、この先をぼんやりと思う。この二か月、積年の疲れを癒していたような。二月に入っても同じような気分。壁三面を埋める本棚を眺める。文学~ミステリ~人文科学~美術本などなど。古くはホメロス『オデュッセイア…

田島志一の関わった美術本(閑人亭日録)

雨の日は家でゆっくり。 審美書院と田島志一を調べるに当たり、参考になる二つの記事。 山口須美『明治期の写真・印刷と出版事情 ―付・コロタイプ印刷の実際―』 http://www.artbooks.jp/Korotaipu.htm 山崎純夫『【田島志一と審美書院】』 http://web.kyoto-in…

苦行の確定申告(閑人亭日録)

確定申告の書類のコピーを取りに外出。コピーし忘れ再び出かけたり、なんとか整理し、税理事務所へ郵送。ふう~。こういう整理作業、イチバンの苦手。書類は少ないんだけど、苦行。ふう~。そういえば整理を待つ本がダンボールに・・・。見なかったことにし…

自律する色彩と形態(閑人亭日録)

描く対象からの色彩の自立そして自律。それが印象派の始まりではないか?とふと思い浮かんだ。写真が発明されたから印象派が生れた、と美術史では語られるが。教科書的な美術史認識ではなく、我流の思いつきが浮かんだ。そして対象の形態からの自立そして自…

金にもならぬこと(閑人亭日録)

K美術館、貸ギャラリーでの展覧会を「物好きだねえ」。源兵衛川のゴミ拾いを「金にもならぬことをして」と言われる。どちらにも「ただの自己満足」という冷笑がある。そういう輩には関わらず放っておく。それが私流の生き方。美術の展覧会は私的(野心ある)…

自分の人生が始まる (閑人亭日録)

大学卒業後、一年限りという約束で父母の甘味処『銀月』の仕込みを手伝った。半年経った十月の朝、父が心筋梗塞で急逝。一年後に東京へ戻り、仲間たちの起こした会社に勤める予定を、仕方なく諦めた。仲間からは「この店はお前のする仕事ではない」と言われ…

三人の先達 (閑人亭日録)

二十歳早々、文筆家の三人の先達に出会った。俳句の加藤郁乎(いくや)、小説の中井英夫そしてドイツ文学者の種村季弘(すえひろ)の三人だ。三羽烏というか。その作品に注目した。縁があって親しくなった。《 四つで思い出したが、先日、静岡県三島市の一青年…

「忘却? 復活? 味戸ケイコ」(閑人亭日録)

『日本美術全集 19 戦後~一九九五 拡張する戦後美術』小学館 二〇一五年八月三十日 初版第一刷発行、収録「150 雑誌『終末から』表紙絵』味戸ケイコ」解説・椹木野衣から。《 味戸(あじと)ケイコ(一九四三~)の名は知らなくても、一九七〇年代に思春期を過…

「忘却 発見 つりたくにこ」(閑人亭日録)

海外で再評価されても、日本ではすぐには話題にならない作家もいる。と昨日書いたが、例えばマンガ家の故つりたくにこさん。海外で発見され、イタリア、カナダ(英語版)、スイス(フランス語版)そしてブラジルから厚い作品集が出版され、今年はスペインか…

「忘却 復活 伊藤若冲」(閑人亭日録)

伊藤若冲は、明治の末期(二十世紀初頭)には美術界では正当に評価されていた。そのことは、審美書院『日本名畫百選』明治39(1906)年に収録されていることでもわかる。夏目漱石『草枕』明治39(1906)年には。《 横を向く。床にかかっている若冲の鶴の図が目に…

「忘却 復活 小原古邨」(閑人亭日録)

小原古邨は戦前は海外でよく売れた木版画家と業界では知られていたが、昭和二十(1945)年に亡くなり、戦後は忘れられたようだ。1997年だったか、三島の画廊主が仕入れてきた小原古邨の落款の多色摺り木版画を見て、「烏は嫌いだが、この木版画は好き」と、画…

型破り 破格(閑人亭日録)

踏み切る、踏み込む、踏み出す、踏み外す、踏み倒す、踏み抜く、踏み止(とど)まる・・・。ふむふむと辞書を眺めていた。踏に続くことばはまだまだある。これらのことばを美術の世界に持ち込むと、どうなるか。アヴァンギャルド=前衛と呼ばれる作品は、「…

縄文土器の衝撃(閑人亭日録)

以前にも何度か書いているが、一昨年の秋、山梨県立美術館で初めて接した縄文土器から受けた衝撃~感動が、今の充実感の引き金になっていると思う。写真や印刷でしか見たことのなかった縄文土器を間近に見て、一瞬で衝撃を受け、感動した。別にデカイわけで…

「しあわせ それとも」(閑人亭日録)

半世紀余り前、寺山修司作詞の『山羊にひかれて』を歌ったカルメン・マキで記憶に刻まれた歌詞♪しあわせ それとも ふしあわせ♪。 https://www.uta-net.com/song/38577/ 「幸せ」がときおり話題になる。幸せになりたいですか、幸せですか、と問い掛けられたら…

『木霊』つづき(閑人亭日録)

昨日取りあげた『木霊』からもう一篇。《 XXXI 岩井橋 川瀬巴水は、夕闇迫る古い木造の橋の上に、二人の農夫を描いた。 夕暮れの色を映す緩やかな川の流れと、その向かうに見える遠い山脈(やまなみ)と、これ から二人が帰っていくであらう小さな集落の高い杉…

『木霊』(閑人亭日録)

松本勝貴氏から恵投された未刊歌集『花の影 風の韻』の感想とお礼を認めた手紙を郵送。氏から同時に恵投されたもうひとつの未刊歌物語集『木霊』を繙(ひもと)く。「あとがき」から。《 これまで五冊の歌集を編み、千首の歌を創った。ずいぶん前からそれらの…

『花の影 風の韻』(閑人亭日録)

松本勝貴氏から恵投された未刊歌集『花の影 風の韻』(ワープロ原稿)を読んだ。二百首どれも重厚にして密やかなかなしみ、細やかな情調がさりげなく詠われ、処女歌集から四十年ほどの歳月の経験の深さをふっと感じさせる。以下、私的好みの短歌のごく一部を…

『TOKYO未来世紀』(閑人亭日録)

東京新聞、きょうの文化欄のコラム『大波小波』は、留「追悼 篠山紀信」。その後半。《 写真の全能性と時代表象性を率直に信奉していた点で、彼は19世紀パリ最大の肖像写真家ナダールに似ている。だが少し見方を変えてみよう。新宿の真言宗円照寺の住職の息…

白砂勝敏展初日(閑人亭日録)

午後、近所のギャラリーVia701で開催されている白砂勝敏展へ友だちと行く。縦二メートル、横二十センチほどの七枚の細長い板に描かれた、太陽の燦然たる光のような作品が目を惹く。間隔は三十センチほどだが、もっと空いていてもよい。見る人に歓喜のような…

『奏枝(kanae)』(閑人亭日録)

明日からの「白砂勝敏展」の展示作業をしているところへお邪魔する。入って左側の壁新作の『奏枝(kanae)』シリーズが十点近く並んでいる。漆黒に塗られた板に、乾燥させて表皮を一部剥いだ小枝が掛かっている作品に瞠目。これはいい!審美書院の本の蒐集を…