『現代思想の断層』五

 徳永恂(まこと)『現代思想の断層──「神なき時代」の模索』岩波新書2009年初版を読了。

《 哲学者たちは「相互主観性」などという便利な言葉を創り出して、容易に語り手と聞き手の間の断層を渡ってしまう。しかし、その断層に橋渡しするためには、 実は語り手が未完成のままに残した物語を、中断した地点で受け継いで、自分の時間的地平で再構成する、聞き手の側の共同作業が必要ではなかろうか。未完成の 作品を完成させるのは、作者ではなくて読者なのであり、「大きな物語」は、そういう形で、歴史の中で受け継がれていく。 》 「第4章 アドルノと『故郷』の 問題」 219頁

《  ディアスポラの人にとって「美しき仮象」である帰郷の夢が、実在のレベルで現実化され、土地所有(領土要求)と「法の力」(合理的暴力)の独占体としての 国家単位の政治目標となる時、「故郷をめぐる闘争」は、その国家が社会主義であれ民主主義であれ、あるいはシオニズムであれ、民族主義であれ、果てしない 泥沼の中で循環することになろう。
  おそらく、「故郷主義」が「善悪の彼岸」に優先して言いたてられるところでは、カントが期待したような「永遠の平和」は、永遠に訪れないだろう。 》   「第4章 アドルノと『故郷』の問題」 231頁

《 それらの複雑なからみ合い、牽引と反撥とが時に異常な方向に断層を活性化させ、安定しているかにのように見える地表を、場合によっては人類史の根拠を 根底から揺るがす震源になるのではなかろうか。 》 「断層の断面図あるいは、『大きな物語』の発掘」 238-239頁

 椹木野衣『震美術論』を想起させる結びだ。二十世紀思想の重厚な断面を垣間見た思い。

 近くの本屋で三千円以上買い上げだと千円引き。浅野秀剛『浮世絵細見』講談社選書メチエ2017年初版帯付、ハンナ・アレント『人間の条件』ちくま学芸文庫2017年 35刷帯付、計2618円。前者、「終章 浮世絵研究をしたくなった方へ」。

《 忘れずに述べておきたいのは、生の浮世絵にできるだけ接してほしいということである。展覧会に行き、じっくり見てほしいのはいうまでもないが、できれば、 ガラス越しでないものを、版画であれば手に取って見てほしいのである。(中略)そして、その質感に接し、味わってほしい。 》 308-309頁

 よくわかる。ガラスを通して見ると、多くの細かな(かつ重大な)情報が消えている。油彩画も同じ。

 ネット、いろいろ。

《 昔から初版本で読むと、復刻本で読むよりも目が疲れませんでした。本への愛着の差かと思っていたのですが、かつて印刷所を営んでいた方から 「活版は微妙な紙の凹凸と、僅かな文字のかすれがあるので目に優しいんですよ」と伺い納得。活版の魅力は陰影や温もり・懐かしさだけではないことを知りました。  》 初版道
 https://twitter.com/signbonbon/status/936547100678021121

《  文系学者あるある(その1)↓!
  その2:本を買って書棚に並べようとしたらすでにその本は買ってあった。 》 森岡正博
 https://twitter.com/Sukuitohananika/status/937162041529208832

《 いざなぎ景気を超えた「イカさま景気」 》