イリス/入須冬美

 昨日、味戸ケイコさんの本を買われていった方と入れ替わるように、銅版画家の林由紀子さんが来館。新作の 蔵書票を持って来られた。早速拝見。去年の十二月に制作された作品に釘付け。題は「イリス」。花のアイリスからとったもの。女性の横顔とアイリスの対比がじつにドラマティック。女性の内面がアイリスの濃厚な陰影描写によってぐっと迫るものがある。これは巴里の夜のマダムですねえ、と言うと、彼女も頷く。それにたいして「紙魚の手帳」36号に載った彼女の蔵書票は昼のギリシャの女性だ。彼女、再び頷く。「紙魚の手帳」にも載っていた彼女の初作品にイチコロだったけど、この「イリス」は十年を経てついにそれを凌駕したと思う。金がないけど即予約。三千円という値段が嬉しい。
 それにしても「イリス」とは。不思議な縁だ。というのも。昨日話題にした米澤穂信愚者のエンドロール」の主要人物は「入須冬美」いりす・ふゆみ。名家の生まれで高校二年生の彼女はこう呼ばれている。
「女帝」。
「美貌もさることながら、人使いが上手くて荒いんだそうだよ。彼女のまわりの人間は、いつしか彼女の手駒になるってさ」
 そのビュランの銅版画「イリス」は大人になった「入須冬美」を彷彿させた。

 午後、「版画芸術」の女性編集者が小原古邨の版画を返却に来館。少し遅れて林由紀子さんと坂東壮一氏が揃って来館、知人の常連も来館。五人であれこれ歓談。午後四時散会。