朝は冷える

 明け方目が覚める。ほんのりと明るい。若い女性の声。なにやら喋っている。酔っ払いか。次に目覚めるとちょっと明るい。小鳥たちの声。冷えるなあ。再び眠りに落ちる。十年前まで店を営んでいたときは午前三時から八時まで仕込み仕事で朝日を見ることはなかった。この十年は日が昇ってから目覚めるので、四十年近く朝日を見たことがない。

 昨日通読した松平修文歌集「蓬(ノヤ)」砂子屋書房を再読。十二年の歳月はこの歌集に色濃く反映している。当初は都市がテーマで、不安、不吉、廃墟、夜だけの街、黒い廃船、病葉(わくらば)といった言葉が頻出している。半ばには父の死去に伴う悲調の歌が続く。そこでは幼時の記憶が鮮烈に思い出されている。その暴風の後は、水に関する言葉──雨、湖、雲、雪など──が溢れるように。都市はそれまでの不安をかこつ都市ではない。都市は別の相貌を見せる。
「現世の職場のひとつ銀行で働く 真昼間の幽霊たちは」
超高層ビルの最上階に骨董店がありて、救世(くせ)観音を売る」