日没前

 福永武彦「冥府」を読んだ。秋の夜長に読もうと思って幾星霜。やっと「夜の三部作」第一部を読んだ。感想? 戦後社会への作者のいたたまれない心情が下敷きになっている。結末部分から。
「しかし希望が僅かでも香料のように残っているから、絶望は一層味が苦いのだ。それは恰も日没前の仄かなうすら明りが、その明るみの故に、夜よりも一層絶望的に感じられるのと同じようだった。」
 夕暮れの秋空をしばし仰ぎ見てしまう。

 ブックオフ長泉店で二冊。佐野眞一「ニッポン発情狂時代」ちくま文庫2000年初版、本格ミステリ作家クラブ・編「透明な貴婦人の謎」講談社文庫2005年初版、計210円。