寒い寒い小雨

 紀田順一郎「われ巷にて殺されん」双葉文庫1985年を読んだ。これは夜の蔵書家」と改題され、他の三篇と一緒に「古本屋探偵の事件簿」創元推理文庫にまとめられている。創元推理文庫の紹介文。
「鬼気迫る愛書家の執念が、読む者を慄然とさせる傑作揃い。」
 古書マニアにはお近づきしたくないわ。
「出ましたらのけときますと古本屋」
 という川柳が第三章で引用されているけど、どうなんだか。第九章、双葉文庫では「叔父」の誤記が、創元推理文庫では「伯父」とただされている。よしよし。
 この小説の舞台は1983年(昭和58年)。
「うーん、一口に四半世紀前とはいえ、古いですねえ」
 と、昭和34年の出来事について主人公の古本探偵が述べている。相手はそれに応えて言う。
「たしかに古く感じますが、社会の基調には変ってない部分も多いですよ」
「そうでないと、近ごろの女房族のように、定年を待っていたかのようにいきなり『私にも定年をください』と言い出し、慰謝料を手に入れてドロンとしようとたくらむようになる」
 四半世紀後の今も変ってない。お空は昨日とおなじようだけれど、きょうはやけに寒〜い。美術館に炬燵が欲しい。……そんな美術館にしたら面白いな。でも、一日中居座る人がいるだろうなあ。