寒い一日

 晴れているのに寒々としている。マフラーを着用し、厚手のセーターに替える。ああ、冬眠したい。冬眠できないから本を読む。出久根達郎「朝茶と一冊」文春文庫2000年を読んだ。一冊の本をダシにあっちこっちに枝葉が伸びる短文集。紹介文に「お茶請けに絶品」とある。心に残る、グサリとくる文が、さらっとした流れのなかにある。
「芸術がどうの、と論じ、ポルノだから次元が低い、と決めつける奴は、反権力を標榜していながら実は権力志向の人間に違いない。まじめ、ふまじめという言葉を遣う論者は要注意だ。」(エロ政府史)
「最近は『少子』問題で、何やら政府が文句をつけている。政府が子供のことに口を出すのは、それなりの魂胆があること、以上に見てきた通りである。私たちは轍を踏んではならぬ。愚かな事項を年表に加えてはならぬ。」(産めよ殖やせよ)
「同性に好かれぬ男が、異性に好かれるはずがない。」(選ばぬ男)
「本は読むためにある、とかたくなに思いこんでいる女性は多い。読まずに、眺めて悦に入る男性の心理は、度しがたいであろう。」(山の本屋の顔)
 かように気持ちのよい科白をさらりと吐く著者は「先日、旅行カバンに『VOW』を数冊入れて出かけた。」という。参ったね。本棚から「VOW」宝島社1987年を取り出す。思わず吹き出したのがこれ。しゃぶしゃぶ用の肉を買いに行った人が見たしゃぶしゃぶの宣伝文句。
「ご家族そろって手軽なしゃぶを」
 編集部のコメント。
「この料理は危ないと思ってたら、とうとう出たか。」

 明るいうちにブックオフ長泉店へ行く(夜は寒くて出歩けない)。「VOW」がNo.15など数冊。ちょっと開いて棚に返す。杉浦明平「カワハギの肝」光文社文庫2006年初版、ジェイムズ・P・ホーガン「星を継ぐもの」創元SF文庫2004年67版、計210円。前者は解説が高遠弘美なので。後者は再読しようと思ったら本がなかった。