胸胸

 昨夜アフリカはセネガルの1970年代の音楽を聴いていて、昭和40年代、東京は銀座赤坂のあこがれのナイトクラブを連想した。若造にはまるで縁のなかった、脂粉と紫煙が繰り広げる禁断の大人の世界。 21世紀から見れば失われた別世界だ。

  あなた・海・くちづけ・海ね うつくしき言葉に逢えり夜の踊り場  永田和宏

 なかにし礼「愛人学」河出文庫は、口紅に始まって指輪、髪、声、靴と続き、着物、下着、ハンドバッグを経て、未練、娼婦、再会、結婚で終わる50章。どの章も最初の一行で目が釘付け。「口紅」。
「口紅は女の短剣である。」
 だから男は探検したがるか。「乳房」の章では志賀直哉の長編小説「暗夜行路」の有名な場面。相手の乳房に触れた主人公の発した言葉。
『豊年だ! 豊年だ』
「この本を読んだ日本男子はみな、このシーンに絶大な影響を受けたはずだ。これが男のたぶん真実なんですねえ。」
 うなづく私。
「そしてもう一つ日本語には『おっぱい』という素晴らしい言葉がある。」
 もう一つ、胸を加えたいね。Mune という発音が好き。

  あの胸が岬のように遠かった。畜生! いつまでおれの少年  永田和宏

 乳房、おっぱいは、そのまんまの露出で面白みがない。

  剥がれんとする羞しさの──渚──その白きフリルの海の胸元  永田和宏

  揺られゐる躯幹よりいたく精妙にその春服の胸揺れてをり  上田三四ニ

 ブックオフ長泉店で二冊。ミヒャエル・エンデ「夢のボロ市岩波書店1987年初版帯付、障泱リ彬光「恐怖の蜜月」角川文庫1987年初版、計210円。