影と髪の毛

 強風の吹きぬける冬天は爽快なまでの青空。蒼天にくっきりと切りとられた細い電線が、青空にきりっと切り込んでいる。鮮やかな黒の極細線が、諏訪敦の絵画「 Japanese 02 」2007年の長い異様に長い黒髪の一筋一筋を連想させる。チラシにも入場券にも使われているその油彩画は、またムンクの傑作「思春期」へと想を運ぶ。そのモデルの少女の十年後を諏訪敦は描いているよう。思春期の少女の背後に伸びる暗くおぞましい影。不安な目を見開いていた少女はここでは既に凛とした大人の女性へと成長した。暗い影の塊は極細の長い黒髪へと変化し、不安な凝視は見るものを射す強い視線へと変貌した。それにしても妖しく不思議な髪の毛だ。

 ブックオフ長泉店で二冊。北森鴻「瑠璃の契り」文藝春秋2005年初版帯付、東雅夫・編「闇夜に怪を語れば」角川ホラー文庫2005年初版、計210円。