芸術を読む

 昨日触れた山崎正和「世紀を読む」から。
「しかし繰り返し痛感することだが、二十世紀芸術はこの自己嫌悪のために、あまりにも慌しく自己否定を反復しすぎたのではないか。俗物主義を嫌うあまりつねに革新を試み、おかげで芸術史に十年つづく時代様式というものが生まれなかった。芸術家が新しい作品より新しい芸術概念を生むことに熱中し、結果として鑑賞者をとまどわせて離反させたのではなかっただろうか。」44頁

「芸術作品もその歴史的な意味とは別に、純粋な作品として愛玩する風潮が蘇りつつあるということだろうか。」72頁

「人間がなぜ文化を創造したかは謎であるが、たぶんその無効用こそが鍵だったにちがいない。」
「少なくとも工業化以後の社会において、文化はその効率主義に抵抗することによって愛されたのは明らかだろう。」251頁

「だが歴史を切り開き文明を創造してきたのはいつの世にも、そのときには異様で『不健康』な精神であったことはいうまでもない。」259頁

 ブックオフ長泉店で二冊。島尾敏雄「死の刺」新潮社1977年初版附録付、檀一雄「海の泡」講談社文芸文庫2002年初版、計210円。