濃紺

 ご近所からいただいた数株の菖蒲(あやめ)。いただいた晩にはしっかりした蕾で咲くのかなあ、と危惧したけど、翌朝には全面開花。早! これでは早く散るだろうと思ったけど、意外にしぶとい。日本女性のようだ。菖蒲は燕子花(かきつばた)に似ている。というか私は区別ができないけど、根津美術館の「燕子花図屏風」はすごい。今は閉館中で見られないが、なにかぐっと押し迫ってくる絵画の力が漲っている。紫紺、濃紺の花弁の連弾が有無を言わさずすごい。この存在感はなんなんだ。
 染井吉野桜、枝垂れ桜、菖蒲、藤そして朝顔等が好みだけれども、物量の力と相まって絢爛豪華な桜、藤、菖蒲にはただひれ伏すのみだけど、一輪二輪と咲く濃紺の大輪の朝顔には切なさが胸にこみ上げてくる。夜明け前の深い闇から生まれた濃紺に、人の生の底知れぬ深さと儚さを直感するせいか。
 それはまた、味戸ケイコさんの絵、北一明氏の輝変茶碗につながる。

 ブックオフ長泉店で三冊。玄月「蔭の棲みか」文藝春秋2000年初版帯付、月亭可朝「真面目ちゃうちゃう可朝の話」鹿砦社1999年初版帯付、安岡章太郎「とちりの虫」旺文社文庫1983年初版、計315円。