母子像

 筒井康隆「佇むひと リリカル短篇集」角川文庫の解説で小池真理子は「母子像」を筒井康隆の短篇ベストワンと評価していたので、手元にある別の本で読んでみた。異次元世界へ入り込んでしまった妻子を探す男の話だった。これは四十年あまり前、テレビ放送されたアメリカのドラマを下敷きにしている。それではハッピーエンドだったが。「母子像」は切ない。 久生十蘭の短篇「母子像」を再読。こちらの主人公は十代の少年だが、これまた切なく重い。これは 1953年、ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン紙主催の国際短篇コンクール、一等当選作。久生十蘭には「ハムレット」があるが、これまた人生の深淵を垣間見せる名短篇だ。

 小説には同じ題名作がけっこうある。意識した最初は、北杜夫が新作「黄色い船」が室生犀星に同題の作品があり、権利継承者に問い合わせたという文を読んで。それ以来何となく気になっている。最近の例では堂場舜一の「帰郷」。大仏次郎の小説に「帰郷」がある。

 ブックオフ長泉店で二冊。久世光彦「聖なる春」新潮文庫2000年初版、日本推理作家協会編「零時の犯罪予報 ミステリー傑作選46」講談社文庫2005年初版、計210円。後者に姫野カオルコ探偵物語」が収録されている。姫野カオルコがミステリー? 読んでみた。女性はミステリアス。おお、コワ。郷原宏の解説。
「ここには事件もなければ死体も出てこないが、どんな犯罪小説にも劣らぬ濃密な謎と緊迫感があって、最後まで一気に読ませる。」
 「探偵物語」といえば小鷹信光探偵物語」が先行作だ。