突破!

 朝は吸い込まれそうな深い青空。山口誓子の処女句集「凍港」1932年を読む。

  扇風器大き翼をやすめたり

  夏の潮青く船首は垂直に

  夏の河赤き鉄鎖のはし浸る

  走馬燈死にゆくふたり舟を漕ぐ

  冬日没(い)る金色(こんじき)の女体(にょたい)姦せられ

  昼ながら天(そら)の闇なり菖蒲園

 こんな凄い句がざっくざっくと立ち並び、実に壮観。この画面では横並びで残念。俳句の現況を一気に突破し、世界を広げたわ。1901年生まれだから、殆どが二十代の作。才気煥発。群像を一気に抜き去った。
「誓子氏は知的・構成的・即物的であった。」山本健吉

 中井英夫は書いている。

  夏の河赤き鉄鎖のはし浸る

 にしても、角川書店で机を並べていたとき西東三鬼から口を酸っぱくして講義を受けたが、私はなんだか天然色映画のラストシーンみたいだと思うばかりで、いつまでも頑強に首をふって三鬼を嘆かせた。思うに、これらの句は、最初の出会いの一瞬、その光芒に眼を射られることがなければ、ついに縁なき路傍の人間として傍えを通りすぎてゆくほかないのであろう。