『破壊王──パラス・アテネ』

 昨日名前のあがった山尾悠子。知る人ぞ知る小説家。三十年前、処女作「夢の棲む街」ハヤカワ文庫 1978年を読んで驚嘆。以後「仮面物語」徳間書店1980年までの数年間は「山尾悠子」症に罹ったような。「仮面物語」の帯で小松左京は書いている。

「彼女は、その若さにもかかわらず、彫琢された文章を鋭いランセットのように駆使して、幻想文学象徴主義文学の境界領域という、いわば現代SFの極北に挑みつづけている。」

 しかし、「仮面物語」に続く新作単行本は出ず、ただ「夢の棲む街│遠近法」三一書房1982年が、ハヤカワ文庫の訂正版といったかたちで刊行されたのみ。月日は流れた。そして2000年、ついに国書刊行会から「山尾悠子集成」という厚い作品集が刊行された。その「後記」で彼女は書いている。

「たとえば、掌に載るほどの精巧な小匣(こばこ)に、彩色された積み木の断片を組み蒐(あつ)めてみること。」

 「作品集成」の栞に小説家佐藤亜紀はエッセイ「異邦の鳥」を寄せている。

「一九七九年の春、『奇想天外』という雑誌に、一篇の小説が掲載された。」
「女流新鋭快作百枚」
「それが山尾悠子破壊王──パラス・アテネ』だった。」
「二十年後の目で眺めても、甘いところも緩んだところも見付からない。驚くべき精度の高さだ。」
「今や同じ細工物を正業とする身としては、感嘆しながらも嫉妬に駆られる他ない完璧さである。」

 読んでみた。おお、フェンシングの剣のようにしなやかな文体、息も継げない急速な展開、一気呵成に読了。はあ、驚嘆。純金製卵の殻のようだ。中身はないけれども、殻は純金。自我のギュウと詰った純文学の対極に位置する不純文学といえようか。いや、不純でなないなあ。

 刊行当時、新聞の文芸時評では井上ひさしによって石川淳狂風記」と一緒に論じられたという「仮面物語」が、作者の意向で収録されず、再刊もされないのは、なんだかなあ。

 ブックオフ長泉店で二冊。小川国夫「海からの光」河出書房新社1971年初版函帯栞付、西村寿行「犬笛」 2007年初版帯付、計210円。前者は持っている気がしたが、購入。調べてわかった。1968年に刊行された南北社版を持っていた。