モップの天使・精・魔女

 近藤史恵「天使はモップを持って」実業之日本社があまりに心に効いたので、続編の「モップの精は深夜に現れる」2005年、「モップの魔女は呪文を知ってる」2007年を読んでしまう。この三冊、どれも心に効いた。深刻なことも深刻にせず、ふっと心を軽くする解決口へ読者を誘導してしまう。微苦笑を誘発する即効の面白さ。見事な手腕だ。脱帽。「魔女」収録「水の中の悪意」から事件が解決して焼肉店での会話。

「今日はさ、おごりたいんだけど……」
 芹香は肉をひっくり返しながら、片手を振った。
「ダメ。デートみたいだからイヤ」
「デートにしたいんだけど……」
 彼女は、一瞬箸を止めた。亨は緊張して息を呑んだ。また箸が肉をひっくり返しはじめる。さっきひっくり返したところをまた返すから、結局同じことになっている。
「ダメかなあ……」
 もう一度押してみると、芹香が答えた。
「ダメ」
 亨はがっくりと肩を落とした。玉砕である。今日は帰って泣こう。
 そう思ったとき、芹香が言った。
「ダメ。最初のデートは焼き鳥や焼き肉じゃなくて、フレンチかイタリアンに連れてって」

 午後は源兵衛川の月例清掃へ。繁茂したジュズタマをバッサバッサと刈ってゆく。汗びっしょり。
 ブックオフ長泉店で三冊、高木彬光「巨城の破片」角川文庫1983年初版、クリストファー・プリースト「奇術師」ハヤカワ文庫2007年5刷、日本推理作家協会編「名探偵の奇跡」カッパノベルス2007年初版、315円。モップの主人公キリコは名探偵じゃあないのかなあ、「名探偵の奇跡」に彼女は出てこない。まあ、名探偵というよりは名解決家という得がたい存在だからなあ。