アンソロジーは愉しい

 昨日買った山口雅也本格ミステリ・アンソロジー」角川文庫、「 Intro. ──我がアンソロジスト事始」の冒頭。
「ミステリを本格的に読み始めた中学生の頃の私の楽しみの一つに、《マイ・アンソロジー》の作成というものがあった。」

 二十代の頃、小説詩歌等の文学作品から「少女」「白鳥」「花々」といったお題で私的アンソロジーの作成を試みていた。これは愉しかった。当時の大学ノートは今も手元にある。

 アンソロジーには旧来、名作選といったものが多いけど、1960年代後半の「全集・現代文学の発見」全十六巻学藝書林は、「最初の衝撃」「青春の屈折」「存在の探求」「日常の危機」「物語の饗宴」といった独自の視点からの作品編集で、テーマ別アンソロジーの先駆けといえるかも。
 1970年前後には立風書房からそんなアンソロジーが出た。
  筒井康隆・編「異形の白昼」
  筒井康隆・編「12のアップルパイ」
  吉行淳之介・編「奇妙な味の小説」
  吉行淳之介・編「幻の花たち」
  大西巨人・編「兵士の物語」
  澁澤龍彦・編「変身のロマン」

 「変身のロマン」からは未知の小説に出会う喜びを大いに味わった。収録作品が短篇だからいい。それから筑摩書房は1980年代に愉しいアンソロジーをいくつか出している。「ちくま文学の森」1988年は、「美しい恋の物語」から「とっておきの話」まで全15巻。好評だったのか、1994年には「新・ちくま文学の森」全16巻を出している。ついでに「ちくま哲学の森」全9巻も。ちくま文庫からは種村季弘・編「東京百話(天・地・人)」1986年などなど。光文社も寺山修司・編集のアンソロジーを再刊したり、新たに種村季弘・編「放浪旅読本」 1989年や山田詠美・編「せつない話」1989年他を出しているけど、驚いたのが「学生諸君!」2006年だ。著者は「漱石・賢治・太宰・陽水ほか」「32人の真の大人が発信する学ぶとは、自立とは、生きるとは何か。」解説は齋藤慎爾。彼が編集したのだろう。

 昨夜、あちこちの本棚を廻りながらワクワクしてアンソロジー本を探していて、ふと眼に留まった北村薫「ミステリは万華鏡」集英社文庫2002年を手にして開くと、夢野久作「瓶詰地獄」を俎上に上げている。その場に坐って読んでしまう。北村薫が躓いた箇所に私は躓かなかったなあ、と四十年あまり前の記憶を探った。
 「第6章『ハムレット』をめぐって」は、久生十蘭ハムレット」について。

「例えば東京創元社版、『日本探偵小説全集8 久生十蘭集』、『ハムレット』の七六二から三ページあたり、《この事件の惨憺たる事情》について語られる部分を読んでみたらどうか。」

 こんな小さい活字だったのか、とひるみながら「ハムレット」を読んだ。該当ページを改めて読む。

「その文は、鑿(のみ)をもってするごとく、読者の胸に刻まれるであろう。」

 おかげで寝不足だ。