財布の中身

 朝、雨はほとんど止んだので自転車で美術館へ。しばらくすると再び本降り。そして雲が割れて光が射す。おお、雨粒が光の筋となって輝いている。これは美しい。

 昨夕ブックオフ長泉店105円棚で見つけたちくま文庫二冊、天野祐吉「バカだなア!」1995年初版、こうざいきよ「財布の中身」2003年初版、どちらも愉快で共感しきり。前者では例えばこんな箇所。

「立派なホールもいいだろう。が、お年寄りが見たいのは、外国から招いたオペラやゲージュツの香り高い演劇ではない。少なくとも、ぼくの父や母が見たがっていたのは、ゲタばきで行けるような手近な場所で、ゲタばきで楽しめるような身近な芸だ。」135頁

 思わず笑ってしまったのが最後の文章「バカだなア」の結び。

「きょうも秋葉原へ行くと、バカを背負った人たちが、『バカだなア』『バカだなア』とつぶやきながら、うれしそうに歩きまわっている。」

 この短文の発表は1983年。

 こうざいきよ「財布の中身」は企画の勝利。目の付け所がステキ。ただ財布の中身を写真に撮っただけなのに面白い。自分の財布はどうなんだろう。五千円札一枚千円札五枚、レシート、名刺、救急絆創膏三つ、ブックオフカードにスーパーのポイントカード、それにほとんど使ったことがないクオカードにパスネットオレンジカードそれから探求本リストの紙片。小銭は別にしまってある。常識的かな。ところで、この文庫が出た2003年にはマドリスト佐藤和歌子「間取りの手帖」リトルモアも出た。「海月書林」の市川慎子もその頃ブレイクじゃないかな。こうざいきよは1981年生まれ。恐るべし20代の女性。「財布の中身」解説は都築響一

「建物だけはやたらに立派な美術館で、月給もボーナスももらいながら『アートの危機』を訴える学芸員や、大学にアトリエも道具も、教授という肩書まで用意してもらいながら制作に『苦闘』するアーティストが、世の中にはたくさんいる。そのいっぽうで、」

 うちみたいな美術館。