湖底のまつり

 ミステリ作家折原一が五日のダイアリーで故泡坂妻夫の最高作に「湖底のまつり」を挙げていたので、未読だったこれを創元推理文庫で読んだ。1978年刊行の幻影城版もサイン入りを当時購入しているけど、もったいない気がして。
 一読驚嘆。三十年前に読んだらこれほどには感銘しなかったと思う。後味のいい巧緻極まる作品だ。ところどころを読み返すが、間然する所がない緻密な構成だ。後発の同傾向作品、伊坂幸太郎アヒルと鴨のコインロッカー」2004年や道尾秀介「シャドウ」2006年の先達であり、手本となる作品だ。綾辻行人が解説で書いている。

「最高のミステリ作家が命を削って書き上げた最高の作品、(略)……すべてが渾然一体となって創り上げられた見事な『騙し絵』。」

「盛岡から田沢湖線に乗りついだときにも田沢湖を見るわけではなかった。古ぼけた駅舎が気に入ったので夏瀬で降り、玉助温泉に投宿した。」

 玉助温泉は玉川温泉のことだろう。1970年頃、玉川温泉周辺の峠と渓谷を歩き廻ったことがあるので、とても親しみを感じる舞台だった。当時の知人女性は玉川温泉の近くで山の宿 ゆきの小舎を営んでいる。再訪したい。

 わざわざ来訪されるので、なるべくお茶を出すようにしている。が、美味しいお茶出しが難しい。「おいしい」と言われると、ほっとする。ささやかな喜び。