池内紀「自由人は楽しい」NHKライブラリー2005年を読む。1756年生まれのモーツァルトから1899年生まれのケストナーまでのドイツに関わる九人の生き方を語っている。「話言葉の基本は残して、読むための本にした。」と「あとがき」にあるが、言葉遣いが柔らかで気持ちよく読める。その「あとがき」から。
「グリム兄弟とシュリーマンもよく似たかかわりにある。およそ同じころに生きて、それぞれが埋もれていたものを『発掘』した。グリム兄弟は人々の記憶のなかにあった昔ばなしを、シュリーマンは土中に隠れていた古代の都市を世に引き出した。」
この一文から、山口昌男「知の自由人たち」NHKライブラリー1998年へ飛んだ。
「私はここ十数年、日本近代をエリートの側からのみ見るのではなく、社会的には敗者(典型的には":旧幕臣":)から見ることの必要性を説いてきた。」
企画展示中の木版画家たちは、日本近代美術史における":敗者":たちであるともいえる。小原古邨、川瀬巴水、高橋松亭らは、創作版画の作家たちが木版画家と自称したのにたいして、木版画絵師と呼ばれていた。ここはまだ実証の詰めが甘いが、今までの追跡ではそう感じる。絵師は浮世絵の流れを汲む。すなわち日本近代美術における":旧幕臣": といえる。かれらのなかで最も忘却の底に沈んでいたのが小原古邨。千葉市美術館で刊行されている「日本の版画」シリーズでは川瀬巴水、高橋松亭の木版画は載っているが、小原古邨は未掲載、未言及。ひと言もない。
「浮世絵藝術」昭和十年第一号(新年号)の「現代版画座談会」から。
(A) 花鳥では祥邨(古邨)氏の独占ですね。
(D) あれだけやる人は他にゐませんよ。
(B) 外国にはずい分売れると聞いてゐますが……
ブックオフ長泉店で三冊。「美輪明宏のおしゃれ大図鑑」集英社2005年初版帯付、千住博「美は時を超える」光文社新書 2004年初版、若竹七海「古書店アゼリアの死体」光文社文庫2003年初版、計315円。