かなり難しい

 世間は一つではない、常識も多種多様、ということを痛感する日々。上手な会話はかなり難しい、と自らの生きてきた世間を振り返り、常識を見直して痛いほど感じる。けれども、この歳になって、上品な交際術(交渉術ではない)に今頃目を開かれるとは思いもしなかった。いかに未熟であるか。ああ、晴れやかに澄みわたる青空を仰ぐ。明確な影と輪郭。眩しい日中よりも夕方のほうが心安まる。クラフト・エヴィング商會「すぐそこの遠い場所」ちくま文庫、「夕方だけに走る小さな列車」より。

「夕方の始まる、とろんとした眠たさに始まり、夜がおりてくる一瞬手前の最後の青い光芒まで。」

 小説家の中井英夫氏は暮れ行く庭を見て同様のことを話された。あれは寺山修司が亡くなった1983年の五月、世田谷の庭。四月は残酷な月だが、五月もまた哀しい。静岡新聞昨夕刊、「第三回大江健三郎賞安藤礼二さんの評論集「光の曼荼羅 日本文学論』(講談社)が選ばれた。(略)折口信夫を軸に埴谷雄高稲垣足穂中井英夫ら近代日本文学作家の難解とされる作品を独自の視点で読み解いた。」

「その異端の文学の力は『潜在的な無意識の構造』を変えられるという。『社会や経済の変革にもつながるかもしれない。僕は単に現状を分析するのではなく、解釈によって新しいものを作り出し、当たり前と思われている現実を変える批評をしたい。」

 ブックオフ長泉店で四冊。黒田研二「ウェディング・ドレス」講談社文庫2008年初版、小島政ニ郎「円朝(上・下)」2008年初版、西村京太郎「四つの終止符」講談社文庫1981年初版、計420円。「四つの終止符」は読んでいるけど内容はすっかり忘れている。いい小説だったという読後感だけが残っている。