大手を振って

 昨日取り上げた「探偵漫画シリーズ『迷路』第14号」若木書房には「スクラップサロン 五分間インタビュー 第一回 つげ先生の巻」。「代表作は……?」と訊かれた22歳のつげ義春

「てなほどのものじゃないけど、わりとたのしくかいたのが生きていた幽霊と四つの犯罪だね」

 つげ義春「四つの犯罪」二見書房サラ文庫1976年を読む。「四つの犯罪」「生きていた幽霊」他を収録。手塚治虫の影響を強く感じさせる画風。内容はなかなか興味深い。石子順造は解説で書いている。

どん底の生活に追いこまれ、歩一歩で怒り狂いに変りかねない痛みや怒りや悲しさをかかえながら、それを体内に深くくいこませて、じっと耐えるしかなかった孤独な若者。」

「つげの初期の作品に登場する犯罪者たちにも明らかに、いっそ異常者にという、つげの悲痛な変身願望の影を読みとらないわけにはいかない。かれらの明るいのびやかさはとりも直さず、絶望の淵に立っていた作者の暗いやけくそのあらわれなのである。」

 解説で石子順造が引用していた「つげ義春初期短編集」幻燈社1969年を読む。巻末の彼の文章「犯罪・空腹・宗教」から。

「そして、しまいには、いっそ犯罪者にでもなってしまったほうが、もはや自分は正常な人間とはみられないから、かえって異常者として大手を振って生きていけるような気持になっていた。」

 秋葉原連続殺傷事件を連想。「あとがき」から。

「貸本マンガ界そのものも。日陰もののような存在だったから、不真面目や出鱈目だけでなく、盗作や模倣も大手を振ってまかり通っていた。誰も文句を言う者もなかった。賢明だと思う。そうでなければ狭い穴倉の中の秩序は保たれていなかったと思う。」

 当時の水木しげるの貸本マンガにも、あの小説を下敷きにしているなあ、という作品が見受けられる。

 ブックオフ長泉店で二冊。伊佐千尋「逆転」岩波現代文庫2001年初版、ミヒャエル・エンデ「遺産相続ゲーム」同2008 年初版、計210円。