「セリフ」と「せりふ」

 昨日買った田中小実昌 「コミマサ・ロードショー」晶文社都筑道夫「サタデイ・ナイト・ムービー」奇想天外社、前者は1977年8月から1980年3月、後者は1977年7月から1979年3 月まで雑誌に発表したもの。よって同じ映画の評を較べて楽しめる。「雲霧仁左衛門」と「柳生一族の陰謀」について。まずは田中の評。

「松竹・五社英雄監督『雲霧仁左衛門』はおもしろかった。たとえば、同じ時代劇でも、『柳生一族の陰謀』は『柳生一族の乱暴』みたいなところがあったが、これは、あれこれ工夫もしてあって、乱暴な映画ではない。」

 都筑の評。

東映の『柳生一族の陰謀』を、満員の試写室で見る。(略)これは大傑作だぞ、とわくわくしていると、だんだん話がひろがって、散漫になってきた。」

ラストシーンは、もっと突飛だ。一瞬、唖然とするけれども、せりふとナレーションの工夫と錦之介の演技とで、立ちかけた腹が、どうやらおさまるようにはなっている。」

「だが、『柳生一族の陰謀』ほど、細部がでたらめでないし、商家の内部、矢場、湯屋なぞのセットもでたらめでないところは(略)安心して見ていられる。」「雲霧仁左衛門」評。

 「柳生一族の陰謀」の萬屋錦之介についての田中評。

「主役の柳生但馬の守になる萬屋錦之介のセリフまわしだけが、はかの者とちがって、なにか大時代がかっている。これは、これでいこうということになったのだろう。また、こんな役では、萬屋錦之介はこんなセリフまわししかできないのかもしれない。いいとかわるいとかいうことではない。ぼくにはわからない。」

 たいして都筑の萬屋錦之介評。

萬屋と改称した錦之介が、むだに年をととらなかったことを見事にしめして、重厚な大芝居を見せている。まったく最近の映画で、こんな堂々たるせりふの芝居を聞くことが出来るとは、思ってもみなかった。」

 「セリフ」と「せりふ」。こんな評較べをしてしばし愉しむ。