新車

 昨夕、自転車を買い換えた。新車はオプション等を加えて五万円也。夜、近所をぐるぐる廻る。車体はやや重い感じだけれど、ペダルは軽い。このままブックオフまで行きたくなるが、財布を持ってなかった。今朝は雨なのでバス。

 チェーホフ「六号室」を読む。六号室とは狂人の病室のこと。医者は健常人の知人との会話で言う。

「そうです? 町はやりきれぬくらい退屈ですよ。言葉を交わすべき人もなければ、話をきくべき人もいませんしね。」

 いつの時代も同じだ。だから一昨日の晩、画家の招きでアトリエに集まった七人は、大いに会話を愉しんだ。

 それはさておき。チェーホフはある女性への手紙で認めている。

「女性との恋の要素が全く欠けているので、きわめて退屈な小説です。」

 いやいや、どこが退屈ですか、後味のあまりよろしくない不条理小説を読んだ気分だ。

「『六号室』のおそろしさは作品そのもののおそろしさである。(引用者:略)つまり、ディテールの一々がわれわれを恐怖と不安に陥れるばかりでなく、かてて加えて、もはや、『誰が狂人で誰が正気なのか、はっきり区別できない』ということが、『六号室』の『見逃しがたい欠点』であるどころか、この作品の美学的原理そのものに基づいていることについては、多言を要すまい。」中村雄二郎「現代情念論」講談社学術文庫242頁

 ここで同じ狂人を描いているガルシン「赤い花」に言及されているが、「六号室」はずっと現代的。

 江戸東京博物館の「うるわしき大正新版画」展の案内チラシの図版「小原古邨『柳に白鷺』1905年(明治38)頃」は「小原祥邨『葦に白鷺』昭和初期」の誤り。私の指摘が正しいとの返事が届く。

 ブックオフ長泉店で二冊。「五味川純平著作集 第20巻 戦争と人間(9)」1984年初版函付、アキフ・ピリンチ「猫たちの聖夜」早川書房1995年3刷帯付、計210円。前者は九冊揃って並んでいる。一晩迷ってとりあえず最終巻を購入。その挟み込みの栞、佐藤利行「交友、作品」に「日付は一九四○(昭和一五)年一○月二日、くれたのは『しげる』こと栗田茂、のちの五味川純平である。」

 きのうでなくきょう買う不思議な暗合。