シリウスの道

 藤原伊織シリウスの道」文藝春秋2005年読了。佳作かな、という当初の予感は秀作に格上げ。手馴れた広告業界が舞台。一気に読ませる面白さは言うまでもないが、使いたくなる科白がいくつもある。会社の年上の上司の女性と主役の部下の男の会話。

「今週末にでもまたふたりして飲みにいきませんか?」
「また私の膝枕で眠りたいわけ?」
「そう。あれはすごく寝心地がよかった」
「でも、よだれでスカートに染みができちゃうのはどうだろう」
「最初からスカートを脱がせていれば、その心配はないでしょう」
 彼女はドアのノブに手をかけたところだった。「うん、それはわるくない考えかもしれない」といった。そして無邪気な子どもの表情でふりかえった。「非常にいいアイデアかもしれない」305-306頁

 主役の男に向かって幼馴染の女性の放った言葉。

「ううん。そうじゃない。好きよ。でもそれ以上に好きな人ができただけ」468頁

「いま、かかっている曲が月光。ベートーベンのピアノソナタ第十四番。弾いているのは、ホロヴィッツ。」463頁

 LPレコードを出してホロヴィッツのその演奏を聴いた。