ジゴマ/魔都

 レオン・サジイ「ジゴマ」中公文庫1993年を読んだ。この昭和12年(1937年)の久生十蘭の訳は、原作が1909年の刊行なので、地の文は古文調で会話は口語体。場面転換が早く、殺人トリックの不可思議さ、メロドラマの嫋嫋たる文体も読み手を引き込む。久生の長編小説「魔都」を連想した。「ジゴマ」は1937年4月に「新青年」付録として刊行。「魔都」は半年後の「新青年」1937年10月号から連載開始。翻訳によって小説の結構を自己薬籠中のものにして連載を始めたのだろう。「魔都」は息もつかせぬ面白さだった。

 昨日の続き。「吟遊星」14号は1982年の刊行。御沓幸正氏の個人誌になっている。亜北斎「ヒッチ俳句」から。

  春立つや初めてといふ日もありき

  三友や空の財布と月の顔

 は、加藤郁乎の俳句へのオマージュと思える。

  春立つや一ニ三四五六七

  三夕や財布をさがす秋の暮

 アホクサイが愉快な俳句から。

  春風や馬の耳にも吹きにけり

  心象は膨大にして夕焼ける

  かへりなんいざりもまじる川花火

  名にしおへば露と答へてしまひけり

  明日へ続く。