すべてにおいて美しい

 昨夕、帰りがけにブックオフ長泉店で三冊。北上次郎「情痴小説の研究」ちくま文庫2003年2刷、フィリップ・K・ディック「人間狩り」ちくま文庫1991年初版、コーマック・マッカーシー「すべての美しい馬」早川epi文庫2001年初版、計315円。「すべての美しい馬」は、大森望との共著「文学賞メッタ斬り!パルコ出版で「すべてにおいて美しい小説とはこの作品のことだ。」とベタ褒めなので買ってみた。きょうは二冊。笠井潔「哲学者の密室」光文社1992年初版、山田詠美「A2Z(エイ・トゥ・ズィ)」講談社2000年初版、計210円。前者は贈呈用。後者、詠美(えいみ)の英語標記はAMY。

 昨日に続き「現代日本文学大系 93 現代詩集」筑摩書房から。《『富永太郎詩集』にはじまり、渋沢孝輔の『漆あるいは水晶狂い』にいたる全二十七篇》が収録されているけど、最後の渋沢孝輔「漆あるいは水晶狂い」思潮社1969年は、東京西池袋の古本屋で、出版された1969年だと思う、加藤郁乎詩集「荒れるや」思潮社と一緒に買った。記憶が確かなら生まれて初めて買った詩集だ。どちらも薄いが堅表紙で、オシャレだな、と田舎から出てきた者にはなんとも眩しかった。二冊とも本棚に鎮座している。「水晶狂い」の冒頭。

《ついに水晶狂いだ/死と愛とをともにつらぬいて/どんな透明な狂気が/来りつつある水晶を生きようとしているのか/痛いきらめき/ひとつの叫びがいま滑りおち無に入ってゆく/無はかれの怯懦が構えた檻》

 若い胸肉にぐさりと深く突き刺さり、それはまた痛みよりも甘美な深い深い共感を呼び覚ました。二十歳当時の寄る辺ない孤独な心情が切々と甦る。当時を思えばはるか遠くへ来たものだ。