大晦日

 今年最後の読書は奥泉光「葦と百合」集英社1991年初版。昨日前半を読んだ。きょうか来年(明日だ)には読了するだろう。年をまたいで読むのもいいなあ。発売当時、魔術的リアリズムなんて評された記憶がある。たしかにその気配。何よりも嬉しいのは、シリアス(真面目、重々しい)な場面とお笑いの場面が交互に出てくること。日本の純文学小説で何よりも足りないのが、笑いだ。哄笑、大笑、微笑、苦笑……。漫画家の吾妻ひでおが述懐するように、シリアスに書くのは笑いをとるよりもはるかに簡単だ。「葦と百合」はそれがうまく合わさっていて、後半はどういう展開かわからんけれど、前半だけでもう高評価。112頁にはこんな箇所があって、微苦笑。

≪「誰が好きなの」
「ちょっとマイナーだけど、中井英夫の『虚無への供物』に出てくる奈々村久生。美人だし。粋だし。知ってます?」
「知ってるよ。しかしあの女探偵は結局事件を解明できなかったんじゃなかったっけ」
「そこが問題なんですよねえ」
「まあ、赤川次郎でなければぼくはなんでもいい」≫

 中井英夫氏はこのくだりをご存知だったろうか。出版当時に読んでいればなあ。