きょうは温い/探検と冒険

 平石貴樹「笑ってジグソー、殺してパズル」集英社1984年を読了。帯の推理小説作家高木彬光(あきみつ)の推薦文の前文。

≪これは完全な純粋本格推理小説である。とかく今までの文芸派の諸氏の書く推理小説は、登場人物の心理描写とか或いは筋の動きだけに主眼がおかれ、本格推理の妙味などは二の次三の次になるものが多かった。≫

 ジグソーパズルが密室連続殺人事件の鍵となった、パズラーとしての面目躍如のミステリー。「完全な純粋本格推理小説」とはすごい表現だ。「完全な純粋本格純文学小説」みたいな。高木彬光快哉が聞こえてくるようだ。

 このミステリーに出てきたクレーの絵を使ったジグソーパズルから、クレーとピカソを較べた。すなわち、クレーの探検とピカソの冒険。クレーは慎重に計算しつつ絵を描いていったが、ピカソは計算からわざと逸脱するように描いていった。クレーにおけるわずかなズレの繊細な味わい。ピカソにおけるガバっとはみ出そうとする強い意志。醤油ラーメンと豚骨ラーメンの違いか。私は醤油ラーメンのほうが好きだ。ラーメンが日本発祥であるように、クレーもピカソも日本美術のさり気なく大胆な表現に「こんなのもあり、かあ〜!」と大いなる憧れを感じたんじゃなかろうか、と想像をたくましくする。午後来館された画家内川義信氏のミロの絵の話題から勝手な想像がぐんぐん育っていった。また、内川氏は、内野まゆみさんの手がけた今回の展示構成に感心しきり。ワカル人にはワカル。なお、「笑ってジグソー、殺してパズル」は探検。創元推理文庫で読める。