翻訳の選択

 今朝は寒かった。晴天なのであったかいシーツをお洗濯。昨夕帰りがけにブックオフ長泉店で文庫を二冊。清水義範「永遠のジャック&ベティ」講談社文庫1991年初版、ダンテ「神曲 地獄篇」河出文庫2009年3刷、計210円。前者は「この文庫が好き!」朝日文芸文庫1998年で選出していたから。後者は平川祐弘の旧訳を持っているけど、これは「全面的に訳文・訳注の見直しを行った。」とあるので。どの翻訳が自分に合っているか、考えてしまうことがある。この「神曲」もそう。「地獄篇」は以前に寿岳文章の翻訳で読んでいるけど、それについて、この文庫では川本皓嗣がこんな解説を書いている。

≪ことに強調しておきたいのは、たとえば先行する山川丙三郎訳が、連綿たる文語体のせいで、最後まで読み通すには骨が折れるのに対して、平川訳は平易な口語スタイルで通していること、そして語彙の上でも、たとえば平川訳の後から出た寿岳文章訳のような、ダンテの「中世」を過度に意識した古語・雅語・廃語の使用を、慎重に避けていることである。≫

 「源氏物語」でもそうだけど、翻訳文はどれがその人に合っているのか、選択の判断は難しい。アンリ・ド・レニエ「水都幻談」の青柳瑞穂訳のように、古文調で綴られる文章から伝わる嫋々たる気配は、現代文ではけっして味わえない奥深い味わいがある。翻訳につきまとう永遠の課題だ。

 保阪正康「昭和史入門」文春文庫2007年初版を読んだ。

≪昭和前期には、戦争、敗戦、勝利、占領、占領地行政、テロ、クーデター、革命騒動、さらには極端な貧困からある程度の豊かさまで、とにかくさまざまな社会的事象が生まれた。≫「まえがき」

 そんな激動の昭和の「六十二年と二週間」をざっくりと描いていて、ひとつの鳥瞰図を得た。いい本だ。