雪〜雪沼

 カーテンを開ければ雪景色。この冬初の雪景色。寒〜〜。
 昨日、雑誌「ユリイカ」1996年9月号の特集「還ってきたセザンヌ」の何篇かを読んだけどチンプンカンプン。脳の成長不良(老化ではなく)を痛感。若桑みどりの論を読んで棚へ戻す。若桑の論から。

≪彼自身の手になる自然の再創造。プロメテウスのような苦闘。それは結局壮大な失敗ではなかったか。白状すればその失敗は無条件に美しい。≫

≪二○世紀絵画は、セザンヌの失敗の上に始まった。(引用者:略)セザンヌの破片のようなタッチはまさしく偶像の破壊の軌跡である。≫

 静かなものを読みたくて昨夜、堀江敏幸「雪沼とその周辺」新潮文庫2007年2刷を開く。雪沼という町とその周辺が舞台。最初の一篇「スタンス・ドット」を読む。今夜で店仕舞いのボウリング場の話。最初の一行。

≪午前十一時から営業をはじめているのに、客はひとりもあらわれなかった。木曜日はいつもこんな調子だからべつに驚きはしなかったが、≫

 きょうは木曜日だ。午前十一時から営業をはじめているのに……。

≪自分の力やフォームにあわせたアプローチの距離と立ち位置を定めるために、床に埋められたスタンス・ドットのどこに足を置いたら最適かを見きわめること。≫

 スタンス・ドットってそういう意味か。場面は変わってアメリカのボウリング場の回想。

≪彼はその独特の音色に強く引きつけられた。(引用者:略)日本ではあまり耳にしたことのない、ちょっと重たくて、くぐもった感じの、それでいてあたたかい音が響いてくる。≫

 ジャズ・ピアノのケニー・ドリューのLPレコード「 The KENNY DREW Trio 」(リバーサイド、1956年録音)をかけた。うーん、この音だ。「レンガを積む」は、なんと個人営業のレコード店の話。

≪なにより勤務している大型店で長年聴き慣れているオーディオ装置とはまったくべつの次元で生き生きした音を出している家具調ステレオに触れて、驚きは倍加した。(引用者:略)必要とされる音を過不足なく鳴らし、しかもそれが店の空気とみごとに調和している。≫

 今夜もLPレコードを聴きたくなった。