撤収

 作品の撤収。木の椅子だけは展示室へ移動。今度は全方向から鑑賞できるので、その独特な美をいっそうよく感じられる。

 辻真先ブルートレイン北へ還る」徳間文庫1985年初版を読んだ。「死体が私を追いかける」の続編のようなもの。ドタバタ本格ミステリー。前作よりもすっきりした印象。種村直樹は解説で書いている。

≪同じトリックを使って月並みな文体で書いてしまえば、たちまち謎を見破られるかもしれないところを、喜劇仕立てにすることによって読者の頭を混乱させ、最後にあっと言わせようとのねらいが成功している。≫

 二作を読んで思ったことは、ジョークの鮮度と難しさ。歳月は非情だ。阿刀田高は「新装版 ブラック・ジョーク大全」講談社文庫2007年で書いている。

≪──ジョークというのは旬のものなんだなあ──つまり、いっときは痛烈に訴えても時が流れてしまうと色褪せる。意味さえわかりにくくなってしまう。≫

 「ブルートレイン北へ還る」から、列車内で秋田のギャバレーのホステスたちが若い男から駅弁を買う場面。

≪あの舌にのせるととろけるような甘エビを、駅弁のおかずにしている駅は──ないと思うが、作者だって、全国の駅弁を食べたわけじゃないから責任はもたない。
 「冗談きついよ。責任とってよ」
  きこしめしているらしい、エビより赤い顔の女ががなりたてると、べつの女が茶々を入れた。
 「甘エビならこの坊やがあんよの間にぶら下げてるよ」
  ぎゃはははと、馬鹿笑いする女がいる。
 「にぎってあげれば、甘エビが伊勢エビになるかもね」

 「新装版 ブラック・ジョーク大全」から。新婚家庭で。

≪新郎「きみ。もしかして結婚指輪をはめる指を間違っていなかい?」
 新婦「いいのよ。わたしたちの結婚も間違っていたんだから。」≫