春の嵐を踏み越えて

  夜来風雨の声、朝も衰えず。雨の合間にバスで来る。その前に グラウンドワーク三島の街角カフェへ行き、大根、トマトなどの野菜を買い込む。途中の抜け道でトマソン発見。コンクリ壁の濡れた雨の模様が逆三角形、ひっくりかえすとモンサンミッシェル修道院のシルエット。カメラは持ってない。残念。

 多摩美大大学院生卒業制作展で作品に出合って以来ずっと応援してきた佐竹邦子さんが多摩美術大の准教授に昇進。万歳〜。上の「雑記」2005年に佐竹邦子論掲載。

 辻真先「改訂・受験殺人事件」創元推理文庫2004年初版を読んだ。「仮題・中学殺人事件」「盗作・高校殺人事件」に続く三作目。探偵役の牧薩次と可能キリコの二人は、第一作では中学生、この作では高三の受験生。それから結婚と、シリーズは続いてゆく。先に読んだ鉄道ミステリシリーズ「死体が私を追いかける」「ブルートレイン北へ還る」「ローカル線に紅い血が散る」は続く「火の国死の国殺しを歌う」でほぼ終了だけれど、牧薩次・可能キリコのシリーズは続いていて、2008年には牧薩次「完全恋愛」マガジンハウスまで出してしまう。戻って「改訂・受験殺人事件」では高校校歌の見立て三連続殺人。そして最後に明かされる「改訂」の意味。これまた脱帽。新庄節美が解説に書いている。

≪ジュニア向けでここまでやるとは!≫

 「仮題・中学殺人事件」「盗作・高校殺人事件」「改訂・受験殺人事件」は、1990年に単行本で「合本・青春殺人事件」として一冊にまとめられ、東京創元社から出版されたが、この単行本では「とってつけたプロローグ」「とっておきのエピローグ」そして「一件落着!」の三掌編が追加されている。その新保博久(しんぽ・ひろひさ)の解説から。

≪続いて同じソノラマ文庫で、「盗作・高校殺人事件」「改訂・受験殺人事件」を出る端から読んで、それこそ驚嘆したものだ。ジュニア・ミステリ畏るべしと感じた。それからジュニア文庫をせっせと読んだけれども、このレベルに匹敵するものはほかになかったと言っていい。実際には、辻真先畏るべしと知らなければいけなかったのだが。≫

 上記「完全恋愛」では作者が小説の登場人物牧薩次になってるけど、辻真先のミステリにはそういう事例に事欠かない。「江戸川乱歩の大推理」光文社文庫1994年の解説、ミステリー評論家西堀小波(にしほり・しょうぱ)は辻真先の創造した人物で、「とってつけたプロローグ」「とっておきのエピローグ」でも言及されている。その西堀小波は解説で書いている。

≪ついでに書いておくと、『合本・青春殺人事件』(一九九○年、東京創元社)で私がけしからぬ振舞いに及んだというのも「御冗談」である。真に受けないように。≫

≪私、西堀小波 Nishihori Shopa をローマ字で並べ替えれば Shinpo Hirohisa 、いや違った、 Ranpo-shi-hisho (乱歩氏秘書)となるのだから。え、i が一つ余るって?≫

 どこまでも読者サービスを考えている辻真先だ。辻真先畏るべし。軽快な文体のゆえに、過小評価されているミステリ作家の一人だろう。