優れたものに対する「怖れ」

 伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』新潮文庫から。

≪人生において、優れたものに対する「怖れ」を持たない人、こういう人は何をやらせても駄目なのだ、とわたくしは思う。得意だとかいうチャーハンだって、まずいにきまっているのだ。≫271頁

 中国陶磁器の名品など、身震いするような桁違いの作品にごくたまに出合う。そんなときには畏敬の念さえ湧く。陶磁器は、絵画などとちがって、直接手のつけられない火炎を操作して作られたものだから、ひときわ深く心に刻まれる。北一明氏の茶碗など、私の所有物といっても、手にするのもはばかれるときがある。

≪ローマの遺跡を見て、「ローマは戦災からまだ復興していない」と洩らした代議士の話は有名だがパリやローマに溢れているアメリカ人観光客の、まず九十パーセントはこの類だと思ってよい。現に、ポムペイの廃墟を見て、「こりゃまた徹底的に爆撃されたものだな」と叫んだアメリカ人の話は、これまた有名なもんだ。≫169頁

 伊丹十三の文章は、ツイッターに合う気がする。「B6判のためのあとがき」から。山口瞳から教わった文章作法を開陳している。

≪活字面が或る程度白っぽい方が読みやすい。そのためには、不必要な漢字はなるたけ使わないこと。たとえば、「為」とか「事」とか「其の」とか「の様に」とかいう言葉は平仮名にする、その代り、難しい漢字は遠慮なく使う、そんなことを習った。≫

 ブックオフ長泉店で二冊。海堂尊螺鈿迷宮』角川書店2006年初版帯付、『日本の商業デザイン』青幻舎2006年初版、計 210円。