河野裕子・続き

 『ひるがほ』から。続き。

≪ 林中のごとき寂(しづ)けさ 月は来て暗き書棚の肩を照らせり ≫

 自宅の本棚は、日光が当たらぬようにしてある。当然月光も射さない。本が焼けるなあ。

≪ 動くたび背にさらさらと遊ぶ髪少女は少女のみを今は愛して ≫

 味戸ケイコさんの絵を連想させる。

≪ 秋の日の無人の砂場に鞦韆の垂りて謐けき影伸びてをり ≫

 これまた味戸ケイコさんの絵を連想させる。鞦韆とはぶらんこのこと。

≪ あきらかに冥き他界はあるものをドアばかり並ぶ廊下を歩む ≫

 東京新聞夕刊に連載中の恩田陸の小説に味戸ケイコさんが絵を添えているけど、そんな情景を連想させる。

≪ もの暗きわれの在処(ありど)よ月光の半ば及べる湯に膝を抱く ≫

 この気持ち、よくわかる。ところで、アラサー、アラフォーは知っていたけどアラ還は知らなかった。しみじみ。

 若き日に一読、心を射抜かれた河野裕子の短歌。

≪ ブラウスの中まで明るき初夏の陽にけぶれるごときわが乳房あり ≫

 昨夕帰りがけにブックオフ長泉店で丸谷才一鹿島茂三浦雅士『文学全集を立ちあげる』文春文庫2010年初版、105円。昨夜、後半部の「日本文学全集篇」を一気読み。感想は明日(たぶん)。