これが本格物なのだ

 鮎川哲也の「三番館」シリーズ第五集『クイーンの色紙』光文社文庫1987年初版を読んだ。ミステリー短篇五篇を収録。「鎌倉ミステリーガイド」には実在の作家が実名や仮名で話題にあがっている。実名では石上玄一郎

≪関西に石上玄一郎さんという作家がいるけど、この人もいそのかみと読むんだよね≫

 私もそう思っていたら、いしがみだという。彼の「自殺案内者」は面白かった記憶。ところで山前譲は解説で書いている。

≪バーテンの謎解きの場面で語られる本格推理に関する意見は、本格推理の作家や読者に真摯に受け取ってもらいたいところである。≫

 その「鎌倉ミステリーガイド」の一場面。

≪しかも作者は、そのデータを三回にわけてそれとなく暗示し、いや、明白に堂々と明示していたのである。≫

≪本格物とはこうした書き方をするのだと教えられたような思いがした。多くの読者はこれを古いというかも知れない。しかし、これが本来の本格物なのだ……。≫

 「達磨に似たこのバーテン」の挨拶。

≪「あ、お珍しい。そろそろお見えになるんじゃないかと」≫「X・X」

 これが以下の挨拶だったら、どうだろう

 「ご主人様、おかえりなさいませ〜」

 山上たつひこ「喜劇新思想大系」か。