モダニズム

 菊地成孔(なるよし)+大谷能生(よしお)『東京大学アルバート・アイラー 歴史編』文春文庫2009年初版を読んだ。これは面白くてタメになる本だ。ツッコミどころはあるけど、オススメ。

モダニズムっていう芸術運動は本当に多岐にわたっているからさ、各分野での特徴的な事柄をまとめて、で、それらを比較対照するっていう作業だけでも、到底一年じゃ終わりません。ヘタすりゃ一生の仕事にもなりかねないもんですが、自分のことを改めて「モダンだ」って言わざるを得ないような欲望が、二○世紀を迎えるにあたってさまざまな分野で用意されていた、というこの状態ね。これは考えてみればかなり奇妙なもので、「ジャズ」っていう音楽はそうした「モダン」化の欲望に関して、その運動の曙から終焉までを、実際に残された音源と共に辿ることができる殆ど唯一の芸術なんですよ。最後に来たものの特権とも言えますし、また大衆芸術ってものが持っている独特な強みっていう側面もあるでしょう。≫73頁

≪曲を一旦バラバラに解体して、で、旋律とコード進行って要素に抽象化・分割して把握し、演奏していく。こうしたやり方をぐーっと推し進めることによって、ビバップっていう音楽は、それまでのアメリカのポピュラー音楽にはあり得なかったようなサウンドを作り出していったんです。≫56頁

≪ちなみにロックの八ビートっていうのはファンクの十六ビートと違って、アタマをガチンガチンと打っていかなければならない、きわめて白人的な感覚のリズム・フィギュアです。≫272-273頁

≪とにかくね、好き嫌いで感情的に書き飛ばしてしまうってことが習慣化してきている現在ですが、批評というのは本来非常に苦しい作業です。歴史を学ぶということは批評視座を学ぶということであり、それは自身の外側にある、これまで自分とは関係がないと思っていたものとコミュニケートすることですから、必然的に自己像の更新も必要になります。≫309頁

 智林堂ブログに≪だれか『古本屋の屋号の由来事典』をつくってくれないか。特に、最近は意味不明で首をかしげるような店名が多いからね。≫とあった。K美術館のKの由来。Kは、スキーのジャンプ競技のK点であり、絶対温度のKでもある、というのが本当の由来。K点超えを目指す意気込みと、肩書きや来歴などを排して作品そのものに価値判断を下す(絶対温度)困難な視点に立つ立場からKを選んだ。