甘いだけじゃあねえ

 昨夜女友だちと電話で最近の洋菓子について話した。洋菓子でもなく、ケーキでもなく、スイーツと最近呼称されている菓子は、甘味と柔らかさが突出して、味が平板になっているのでは、で一致。昨晩親戚からおすそ分けでいただいた某老舗の羊羹は、小豆の甘味の裏に塩気が黒衣のように控え、その絶妙な塩梅が羊羹の深い旨みを作りだしており、口福な気分だったので、一際盛り上がった。レモンパイでもアップルパイでもイチゴのタルトでもチーズケーキでも、酸味と甘味とが絶妙なバランスをとって精妙にしてダイナミックな味わいを生んでいるところに菓子の醍醐味がある。菓子が離乳食へどんどん近づいていることを三十年あまり前に指摘したのは小説家の倉橋由美子だったが、二十一世紀に入ってさらに加速した気がする。スイーツだからねえ。

 そんな話をした後、ジャズ・レコードをかけた。デクスター・ゴードンのテナー・サックスが鷹揚に鳴り響くレコード、チャールス・ミンガスのウッド・ベースがブイブイ吠えるレコード……そしてエリック・ドルフィーのアルト・サックスとバス・クラリネットが夜を捻り込み、ブッカー・リトルのトランペットの一閃が闇にきらめき、マル・ウォルドロンのピアノが舗石を叩き込む……演奏が渾然一体となったライヴ・アルバム『 ERIC DOLPHY AT THE FIVE SPOT 』1961年録音にずぶっと沈潜する。ビター・ビター・アンド・ア・リトル・スイート。モダン・ジャズは都市のコンクリート壁に囲まれた夜の地下室で生まれた、と想像をたくましくする。

 お終いにセネガルのバンド、オーケストラ・バオバブ ORCHESTRA BAOBAB のCD『MADE IN DAKAR 』を聴く。青天井の深い夜のもとでの音楽、アフリカの地面に直結している開放感がある。

 話題は毎日新聞昨夕刊、「『ビッチェズ・ブリュー』40年の特別版」という記事に行くのだけれど……。

≪「ビッチェズ……」とは、ジャズの巨星マイルス・デイヴィスが1970年に発表した、革命的なアルバムのタイトルである。≫

 このアルバムには戸惑った。蒼天を突き抜けた、その先の杳かな宙=深い闇を思わせるが。