オーウェルの評論

 ジョージ・オーウェルオーウェル評論集』岩波文庫1983年3刷を読んだ。よくこなれた訳文(小野寺健・訳)で、文章がすっと頭に入る。すっと頭に入るが、内容はとても深く、じっくりと考えさせる。印象的なくだりを少し。

《わたしの出発点は、つねに一種の党派性、つまり不正にたいする嗅覚である。》17頁

《ほんとうに風景の中にいる人間は、風景など見ていない。》110頁

《そして芸術作品の価値を測るのにただ一つ問題になるのは、「後世まで残るか」ということだけである。》135頁

《いわゆる「それ自体の世界を創る」作品なのである。》150頁

《だが、時として、奇異なものの正体をあらわにするより、日常的なものの正体をあらわにすることによって新世界を切りひらく小説が現れることがあるのだ。たとえば『ユリシーズ』の重要な特性は、その素材の平凡さにある。》151頁

《大戦のさなかに書かれた本のうちで、最良のものは、ほとんどが戦争にはまったく背を向けて、そんなことは知らないといった姿勢に徹しようとした作家たちのものであった。》206頁

《一九一七年当時、物を考える力があり、感受性のある人間は、せいぜい人間性を失わずにいるだけで精一杯だったのだ。そしてそのためには、何の力もないという格好、それどころか軽薄な格好をするのが一番だったといえるかもしれないのである。》208頁

ナショナリストとは、威信競争という観点からしか考えない、すくなくともまずそれを考える人間なのである。》310頁

ナショナリズムとは自己欺瞞を含む権力願望なのだ。》310頁

 この本で描かれているイギリスの階級社会、私の想像を超えている。

 昨夕帰りがけにブックオフ長泉店で二冊。江國香織・文/山本容子・絵『デューク』講談社2002年4刷帯付、樋口有介『誰もわたしを愛さない』創元推理文庫2007年初版、計210円。前者は文庫版で堅表紙なので買い。