6月20日(月) 休館日

 獅子文六『自由学校』角川文庫1963年3刷を読んだ。私の生まれた日をはさんで新聞連載されたこの小説はじつに愉快で面白かった。いい小説だ。昭和二十五(1950)年の東京の風俗がみごとに活写されている。この日録を悠閑亭日録にしたのは、この小説で悠閑という言葉を知って気に入ったから。

《 外観的には、ミジメな目に遭っているが、当人の心は、悠閑を極めている。》260頁

 当時話題騒然となったロレンス『チャタレー夫人の恋人』がさりげなく組み込まれている。

《 男は、そんな小さな宇宙ではない。紳士よりも、森番の方がモテるというのは、その証拠ではないか。》107頁

《 「あたしは、もうボーイには、飽きちゃったのよ。あたしの求めるものは、マンよ。肉体的、精神的に、一個のマンでなければ、あたしの中心に、響いてこないのよ。あたし、もう、成熟した女性なんですもの。」》268頁

《 ただ一つの欠点は、平さんが、彼女と同じ階級の言葉を話さず、同じ世界の風習を知らないということだが、これも、考えようによっては、かえって、彼女の興味を唆(そそ)るのである。もう、階級や教養の差異を問われる、世の中ではない。》284頁

 いろいろな箇所で『チャタレー夫人の恋人』の影響を感じる。

 使いたくなる語句。

《 恋愛もバナナと似たものであって、食べ頃がむつかしいのであろうか。》113頁