小中英之『わがからんどりえ』、気になってはいてもなぜ今まで読まなかったか、気がついた。題名のせいだ。「わが」なんて仰々しい言葉が無意識に敬遠させた。「からんどりえ」とはフランス語でカレンダー=暦のこと。福島泰樹は当時の書評紙に書いている。
《 その微妙な気息が文体のあらたな魅力となっている。しかし読み手の気分がのらないと読みすごしてしまうものがずいぶんとある。私なども、からんどりえの気息にはいってゆくまで、かなりの時間を要した。》
昨日は巻末の安藤次男「小中英之の歌」を読み、自らの読みの不確かさに震撼し、福島泰樹の文に胸をなで下ろした。彼らが取り上げなかった短歌を。
月射せばすすきみみづく薄光りほほゑみのみとなりゆく世界
冬の日のあけがたひとり沈黙のはてに胡桃を割りつつ遊ぶ
花びらはくれなゐうすく咲き満ちてこずゑの重さはかりがたしも
黄昏にふるへ浮かびて遠街のいづこも人のけはいを灯す
薄明の高きに百合の蘂ふるへ愛なき世界ささふるごとし
詩歌とほくひとの形見のごとく昏れまづ月光のしたたりを浴ぶ
『安藤信哉画集』が届く。