9月 7日(水) 翼鏡

 昨夕帰りがけに本屋で渡辺温アンドロギュヌスの裔(ちすじ)』創元推理文庫2011年初版帯付を購入。1575円。新刊だって買う。それからブックオフ長泉店で三冊。岩本素白東海道品川宿ウェッジ文庫2008年2刷、桜庭一樹推定少女』角川文庫2008年初版、多田富雄『独酌余滴』朝日文庫2006年初版、計315円。

 小中英之『わがからんどりえ』を再読した勢いで、第二歌集『翼鏡』砂子屋書房1981年初版を読んだ。一昨日引用した《 韻律の力と独自の文体を確立した『翼鏡』》だ。さて、どうだったか。『わがからんどりえ』がミラーボールに反射する、砕片のきらめきのような情調を与えたのにたいし、『翼鏡』は落ち着いてしまった男の気持ちに全編貫かれている。私には掬すべき歌がほとんど見つからなかった。

  さまざまの想(さう)をひとつにひきしぼり海ゆ謐けく月は昇りぬ

  かきつばた咲くきはまりの濃むらさき水に映るを境(さかひ)に生きむ

  霧ふかく真木立つ夜を壮年の奥ひとつなる意思の鳴りいづ

 小中英之の歌に松平修文の歌集『水村(すいそん)』の歌をあわせてみる。上が小中、下が松平。

  さみだれの雨の激しき日の果てに「白樺派」といふひびきかなしむ
    ×
  あなたからきたるはがきの「雨ですね」さう、けふもさみだれ

  水門を春のひかりは砕け落つわが額の傷かつて凄まじ
    ×
  少女らに雨の水門閉ざされてかさ増すみづに菖蒲(あやめ)溺るる

 お昼前、安藤信哉のご遺族から電話。いい本ができました、と感謝される。ほっ。

 『安藤信哉画集』K美術館刊行は好評。昨日さっそく二冊売れ、きょうは五冊お買い上げ。印刷部数はたった250部。A4版72頁オールカラー、ソフトカバー装。頒布価1500円。「安い! 3000円はする」「センスがいい! 印刷がいい!」と評判。いい人たちに恵まれていい画集が出来た。ご遺族が出費され、私たちが知恵を絞って制作。二度と出来まい。