はだか

 覚和歌子『ゼロになるからだ』の解説の谷川俊太郎から連想が飛んで彼の詩集『はだか』筑摩書房を再読。「からだ」から「はだか」へ。大き目の活字で全編ひらがな。そう、子ども向きの本の体裁。子どものときのヒリヒリする赤裸々な気持ちを言葉に移す試みだ。

《 こころがぼくよりさきに/こうちゃんをはしっておいかけた/ことばはおいてけぼりだ/もうことばはきもちにおいつけない 》「きもち」より

 佐野洋子の挿絵がたくさんあって、詩画集のよう。太い筆でさっと描かれたような筆致。うまいと思う絵あれば、首を傾げてしまうものもある。この詩集を子どもが読んだらどんな感想を抱くのだろう。大人向きの詩集という印象。

 ブックオフ長泉店で二冊。荒俣宏『屋根裏の読書虫 今宵の書林の水先案内』ダイヤモンド社1995年初版、小泉喜美子『やさしく殺して ミステリーから歌舞伎へ』鎌倉書房1982年初版、計210円。後者から「『沼津』について」。

《 『沼津』は『伊賀越道中双六』全段を通じてのすぐれた場面であり、近松半ニ快心の絶筆である。》

《 なぜなら、ここには平作という一人の年老いた雲助、つまり江戸時代に宿場などにたむろして旅人の駕籠をかついだり荷物を運んだりするのを業とした人夫の一人の人間像が、激しく、一種壮絶な迫力をもって描かれているからである。》

《 反逆精神。/これなくしては、いかなる創造もなし得ない。権威におもねり、既成のモラルに追従し、無難凡庸なる作品を量産することによってのみ売名と生活の安泰を計る輩に、どうして真の創造者の栄光を冠せることができようか?》

 沼津市大岡の東海道本線に平作踏切がある。

 故小泉喜美子さんからの葉書が、昨日触れた『銀座ショートショート旺文社文庫に挟まっていた。収録されたショートショートのオチについての問い合わせの返事。ネタが歌舞伎だとお手上げ。戸板康ニは面白がってくれた、とある。そうだろうなあ。