天藤真『遠きに目ありて』創元推理文庫1992年初版を再読。全五話の連作ミステリ。重度身体障害者の少年が謎を解く安楽椅子探偵もの。どれも上出来、本格ミステリを堪能。「第三話 出口のない街」の一節。
《 千葉市栄町キャバレー「美女林」の経営者である。不況で苦しいのは軒並だが、彼の店の場合もう一つ根本的な原因がありそうだといつも思っていた。実が名に伴わないことである。
「よく客にもいわれるんですよ。下の林もすさまじいが上の美女はもっとすさまじいや。美女でも林でもなくてブス畑じゃねえかなんてね。」》
ふっと微苦笑させる箇所がさりげなく織り込まれている。泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズとはまた、ちょっとちがったユーモアがある。この「第三話 出口のない街」の発表された1976年も不況。好況が珍しいことなのか。
《 詳しくいえば、仁木さんの『青じろい季節』(一九七五、毎日新聞社)に登場する淡井貞子、勲母子がきみたち母子の原型です。》
と「あとがき」にある。では、次は仁木悦子『青じろい季節』か。