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 展示がほぼ終了。明日はどなたが来館されるか。

 萩谷朴『語源の快楽』新潮文庫2000年初版をぱらぱらと読む。表題どおり、なかなか愉快な記述だ。「谷町」の語源について。

《 相撲社会には、贔屓筋の旦那を、タニマチと呼ぶ隠語がある。これには、明治時代の大阪相撲において、谷町筋にいた外科の医者が、力士たちを大変可愛がって、怪我や病気の面倒をよく見てくれたことに由来するという説明が加えられている。》

 その医者が、著者萩谷朴の祖父萩谷義則だろうと、状況証拠を挙げて推測している。

《 何くれと面倒を見た、タニマチなる隠語の条件を十分に満足し得る人物であったと判断するのである。》201頁

 説得力ある調査だ。「さばをよむ」の語源。

《 これは、キリシタン禁制の徳川時代、仏教が国民のすべてに普及していた頃の生活感覚を考慮せねばならぬ問題である。/サバとは、「散飯」または「生飯」と書く。》158頁

《 古くは『枕草子』「さわがしきもの」段にも、
    板屋の上にて、烏の、斎飯(とき)の生飯(さば)喰ふ。
  とあるから、仏家の用語であるサバとというコトバが、日本人の誰しもが日常に用いていたものであることがしられる。鯖や魚市場の出る幕ではない。》159頁

 解説で橋本治が書いている。

《 以前私は、萩谷先生の校注による『枕草子』(新潮日本古典集成)を底本にして、『桃尻語訳枕草子』を書いた。萩谷先生にはそれでご迷惑をおかけしてしまったけれども、私としては、萩谷先生の本以外に底本にするべきものがなかった。》

《 ある国文学関係者から、「萩谷説は異端中の異端なんですよね」と言われたりもした。》

 このくだりを読むと、北一明氏の論説と焼きもの作品を連想する。

《 それよりも私にとって重要なことは、萩谷先生の思考の基本が、「自分にとって納得が行くか行かないか」にあることなのである。》

 北一明氏と同じだ。本棚の萩谷朴校注『新潮日本古典集成 枕草子(上・下)』新潮社函帯付を手にする。ブックオフで二冊210円で以前購入。