ご近所のお葬式の世話人を仰せつかったため、休館。
昨夜は北森鴻『花の下にて春死なむ』講談社文庫を再読。六編を収録。「家族写真」の一節。
《 読み終わった本を返し、次は誰の本にしようかと、彼は迷った。山本周五郎は好きな作家だが、何冊も続けて読むには少々しんどい。隆慶一郎は借りたが最後、今夜眠れなくなりそうで恐いし、吉川英治は長すぎる。》
巧いことを言う。前世紀、三島駅南口からすぐの小路に、隆慶一郎の「不肖の息子」がスナックを開いていた。六編どれも巧い。安心して読める。
葬儀の後の納骨まで参列して帰宅。肩の荷が降りた。夜、北森鴻『桜宵』講談社文庫の前半二編を読む。『花の下にて春死なむ』に始まるビアバー香菜里屋シリーズの第二作。
《 東急田園都市線三軒茶屋の駅から商店街を抜け、いくつかの路地の闇を踏みしめたところにぼってりと等身大の白い提灯が浮かぶ。それが、この《香菜里屋(かなりや)》の目印である。》「十五周年」
「十五周年」は、岩手県花巻市から東京へ出てタクシー運転手をしている若い男が、女友だちの母親が営んでいる小料理屋の十五周年記念パーティに招待され、故郷へ帰って起きた不思議な出来事の真相を探るという筋立て。
《 《千石》という、小暮夕海の母親が経営する小料理屋が特別なのではない。花巻市のそこそこにある繁華街、そこに点在するすべての明かりの下で、同じ会話が交わされ、それが毎夜繰り返されるのである。》
花巻。震災と巨大津波で壊滅的な被害を被った街。この若い二人の安否が気がかり。
表題作「桜宵」もまた、余韻を長く残す。葬儀の後では一際印象深い。