山崎方代

 朝イチで床屋へ。風が強い。向かい風なので自転車を漕ぐのが大変。肩が凝る。

《 マッサージに行きたいけど、どこでインフル拾っちゃうかと思うと躊躇。》

 同感。こういう時は冬ごもりじゃ。

 『山崎方代全歌集』不識書院1996年2刷収録の四歌集『方代』『右左口(うばぐち)』『こおろぎ』『迦葉』を読んだ。没後まもなく刊行された『迦葉』を読むと、「山崎方代(ほうだい)」という虚構の歌人を主人公にした作品集(歌集)という印象を受ける。

《 夕日の中をへんな男が歩いていった俗名山崎方代である 》

《 方代の名刺を刷って手の平の上に一枚のせて見にけり 》

《 ころがっている石ころのたぐいにて方代は今日道ばたにあり 》

《 早生まれの方代さんがこの次の次に村から死ぬことになる 》

 以下の歌に、山田風太郎を連想する。

《 欄外の人物として生きて来た 夏は酢蛸を召し上がれ 》

 山田風太郎は自身を「列外」と自覚して生きて来た。欄外と列外。同じ外でも隔たりは大きい。四歌集を通読して、最初が高くてしだいに下ってきた、という印象を覚えた。『方代』から気に入った短歌。

《 シグナルの青と赤とのまたたきよ平和はここに溢るるばかり 》

《 宿無しの吾の眼玉に落ちて来てどきりと赤い一ひらの紅葉 》

《 東洋の暗い夜明けの市に来て阿呆陀羅経をとなえて歩く 》

《 道ばたに焚火があればまたぐらをあぶりて又歩き出す 》

《 くりかえしつたえる朝の報道の事実と云えど信じるなかれ 》

《 茶碗の底に梅干の種二つ並びおるああこれが愛と云うものだ 》

《 一足の黒靴がならぶ真上より大きな足が下りて来たる 》

《 ほどけたる靴ひもをゆわきなおさむとかがめる時に吾がある 》

 などなど。読み返すと選出歌がガラリと変わってしまう。困ったことだ。