買えない味

 昨晩、近所のスーパーで買い込んだ食料品の中にチョコレート二箱を紛れ込ませた。二月はチョコを買うのに冷や汗。バレンタインなんてものがあるんだからあ。で、こんなチョコ セピアちゃんは欲しいねえ。京都のフランス屋製菓の商品。私は買えないなあ。

 ブックオフ長泉店で二冊。近代ナリコ編『 FOR LADIES BY LADIES 女性のエッセイ・アンソロジーちくま文庫2007 年2刷、山田風太郎『天狗岬殺人事件』角川文庫2010年初版、計210円。前者は贈呈用。後者は2001年に出た出版芸術社版単行本(持っていない)の文庫化なので(そんな理由かい)。

 平松洋子『買えない味』筑摩書房2007年3刷を読んだ。ここにはたしかに「買えない味」がいっぱいあるわ。

《 米は冷えてから味がわかる。貯金は減ってからありがたみがわかる。》「冷やごはん 炊きたての裏側」

 同感。どっちにも同感。痛感。

《 寝る前に鉄瓶に水を満たし、沸騰させるのも習わしになった。火を止めて一晩置き、翌朝あっためてつくる白湯のおいしさといったら、もう。なんといえばよいか、からだが喜ぶのである。》「鉄瓶 おいしい白湯を飲もう」

 鉄瓶ねえ。高校生の時、修学旅行で行った盛岡でわざわざ買った鉄瓶を、平松洋子と同じ失敗をやらかして、こりごり。

《 このむなしさを味わうこと三回。》

 四回目には……か。鉄瓶と女ほど扱いが難しいものはない。

《 さて。オトナの夏ともなれば、アイスクリンの代わりにハイボールである。》「本 一冊にくぐもる味と匂い」

 流行になる何年も前にハイボールだよ。ハイボール、私は飲んだことがない。オトナ、オジサンをすり抜けて大人しいオジイサンになってしまった私。

 料理本は、台所に五、六冊ある。以前は本を参考に火加減の具合とかを勉強した。ガス台はプロ仕様。昭和の時代のことだ。最高の料理を作るには最良の食材が必要、そんな食材の入手法がわからず、フツーの料理で間に合わせるようになった。本も棚で埃をかぶっている。友だちから平松洋子の本を依頼され、以前ブックオフでこのちくま文庫版を見つけて渡したことがあった。今回買った単行本は自分用。大上段に構えず、日常生活に味わいを増すささやかな手段がどっさり盛られている。不精な私でさえ試してみようかな、とその気になる(だけ)。