もののはずみ

 堀江敏幸『もののはずみ』角川文庫2009年初版を読んだ。二ページたらずの短いエッセイが五十篇。それぞれに写真が付いている。これはいい。他愛ない古物への愛着ある何気ない言葉遣いに、和やかな共感がゆるやかに広がる。名エッセイ集だと思う。今まで読んだ彼の文章で最も惹かれる。友だちに貸したくなる。もう一冊あれば贈呈したくなる。それにしても簡素きわまりない装幀(高柳雅人)だ。

《 男女のあいだがらだけでなく、「もの」たちの世界でも、組み合わせというのはとても神秘的で、一筋縄ではいかない。》「空気が一変した」

《 ところがそのおじさんのスタンドには「物心」が満ちあふれていた。けっしてきれいではないけれど、隣り合って置かれている「もの」たちのバランスが絶妙なのだ。(引用者:略)するとおじさんは、ちらりと私に目をやって、犬か、地球儀か、と訊いてきた。犬です、と応えると、彼はなにも言わず立ちあがり、奥の箱からべつの犬を出してきて、そっと横にならべた。
 空気が一変した。彼らはまるで、幼稚園の頃からの友だちみたいにたたずんでいた。》

 自宅の部屋の隅に放置されていた段ボール箱から古物ニつを美術館へもってきた。昭和の時代、東京のレコード店で買ったアフリカのちゃちな親指ピアノと、タイ製の木彫りで、楕円形の鳥かごに小鳥が入っている掌に乗るもの。来館したベテラン木彫作家が、鳥かごを手に乗せてしばし眺めていた。ちゃちだけれども、とぼけた味わいがある。

《 もしかすると、「物」じたいより、背後にあるさまざまな「物」を語ることのほうを、物語のほうを大切にしているのかもしれないのである。》「あとがきにかえて」

 名画の観賞にはこれ「背後にある物語」がしゃしゃり出て、観賞のさまたげになることがままある。困ったことだ。

 私にはいまのところ縁のない花粉症。

《 このハナミズを止めるにはどうすればいいんだろう……。

  (1)善行をほどこす (2)巡礼の旅に出る (3)嘘をついたり見栄をはったりせず正直に生きる (4)薬を飲む 》