不倫(レンタル)

 姫野カオルコ『不倫(レンタル)』角川書店1996年初版を読んだ。前半は抱腹絶倒。この言葉を初めて使えた。いやあ、人前で読まなくてよかったわあ。何度も思わず吹き出してしまう。辛辣かつ笑える。辛笑という言葉はあったかな。

 語り手は力石理気子。三十路を超えて未だ誰からもSEXへ誘われない、処女の官能小説家。空手合気道などの武術に秀でている身長170センチの美女。宝塚の男役みたい。すごい設定だねえ。のっけからこんな文章。

《 ペニスとヴァギナの話を無計画に書けば「衝撃的な文学」と称され、ふつうくらいに書けば「艶やかな文体」と称され、計画的に書けば「ポルノ小説」と称され、ていねいに書けば「ロマンス小説」となり、ぞんざいに書けば「恋愛小説」となる。》8頁

 炯眼。フランソワーズ・アルディさよならを教えて」。

《 この気分がどんなに自分に不似合いであろうとも、この曲はヒトから客観性を忘れさせる「純文学的顔文不一致の法則」にのっとった、まやかし効力があった。》15頁

《 「否」も積もれば麻痺となる、というのも作った。あまりに男から「否」と返されているうち、「諾」がもはや想像できなくなること。》28頁

《 雨ニモ負ケズ……なんとかかんとか中略して……口ではイヤイヤと言いながらカラダは悦楽にうちふるえるような女に、私ハ、ナリタイ。》44頁

《 「フ、それはきみが飛ぶのを恐れなければ容易に実現することなのかもしれない」

  「どっちかっつうと、私が飛ぶのを恐れているんじゃなくて、私が飛んでくるのを男が恐れてるから、今までのロマンス人生、暗かったんだと思うけどなあ」 》106頁

 1960年代から70年代の文化事象がさりげなく満載。それだけで一冊の本ができそう。上記はエリカ・ジョング『飛ぶのが怖い』と藤圭子『圭子の夢は夜ひらく』を下敷き。

《 性の嗜好にいびつな物を持つ者をヘンタイと呼ぶならば、紫式部からノーマン・メイラーにいたるまで、いたってからも、人類は性愛をこれほど長きにわたり追求してきてまだ作業終了しておらぬのだから、ヘンタイだってそんな簡単なものではないはず。》196頁

 引用したい箇所は引きも切らず。困ったことだ。それにしても、これは反・不倫小説、というべきか。なかなか深い洞察に満ちている。

《 いつも疑問だった。映画も小説もラブシーンに避妊のシーンが出てこない。どうやってこの人たちは避妊しているのだろうか、と自分が書いているときでさえ疑問だった。》203頁

《 不倫(レンタル)は、子を見ず泣き見ず金いらず。おおムッシュウ、都合がよすぎると思わば思え、ホトトギス。》 273頁

 明日へ続く。

 ネットの見聞。

《 東京新聞のすっぱ抜き「福島県飯舘村の空間線量率の値が年明けから急低下した。今年は積雪が多かったのでその影響だろうかと考えていた。3月末に事故後1年目の調査で村に入りモニタリングポストを確認して驚いた。線量測定器の置かれている場所の周りは徹底的に除染され、表土も入れ替えられていた」》

《 人口が一億人を切る前に原発廃炉を進めて数を減らしておかないと、電力会社の収益減で廃炉費用が足りなくなるでしょう。米国でも廃炉が費用不足で頓挫しています。そのときに廃炉費用を肩代わりするのは国民の税金です。》