ベルカ、吠えないのか?

 昨夕帰りがけにブックオフで二冊。カズオ・イシグロ夜想曲集早川書房2009年4刷帯付、東川篤哉放課後はミステリーとともに実業之日本社2011年5刷帯付、計210円。

 古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』文春文庫2008年初版を読んだ。

《 イヌよ、この二十世紀/戦争の世紀/軍用犬の世紀が生み出した血統にして、地上のいたるところに散らばり、増殖をつづけるイヌたちよ、お前たちの岐(わか)れた系統樹は最後にどこで接(つ)がれる? 》341頁

 二十世紀を生きた軍用犬たちを主軸に置いた、前例のない視点からの大胆な構想。

《 想像力の圧縮された爆弾。創作意図を問われれば、ひと言、それに尽きる。(略)それから歴史に挑む必要が生じた。 》あとがき

 と、大胆に言いのける作家。それだけの自負を納得させる読後感。先行作『アビシニアン』に結晶のような硬質の文体を感じたけど、これには液晶のような文体を感じた。この炸裂する疾走感。影響を受けた作家に詩人の吉増剛造や小説のガルシア=マルケスの名が見えるが、納得。

《 生きのびて疾駆する。お前たちは死なない。 》114頁

 上記のように、現在形と呼びかけの語りが混在し、疾走感をいや増してゆく。

 ネットの見聞。

《 今日の議論聞いて思ったのは、現実とはそもそも何かを規定すること自体の難しさ。議論は蓄積されてるのだろうけど、そうとうの難問じゃないのかな? まあ今日は、現実は直観的に指示できるということで議論してたが、ここはけっこう難関。 》森岡正博

《 「いま」とは「世界がこのようになっている」ということから「世界叙述」を引き算したものという理解が今日の議論で示された。それはヴィトゲンシュタインがかつて言ったことでもあるが、それだけでは不十分のように思う。世界がこうなったという経歴の相関者が「いま」ではないのか。 》森岡正博

《 分析哲学系の人が「哲学では・・・」というときに思念されているものと、ハイデガー研究系の人が「哲学では・・」というときに思念されているものは、相互了解できないほど離れていたりする。そして英米系と大陸系の和解とか真顔で言ってる人は、インド哲学のことなど脳裏にないことがほとんどである。 》森岡正博

 横尾忠則現代美術館が11月に神戸で開館するとか。

《 横尾忠則が「現代」なのか、横尾忠則と「現代」なのか? 》

《 もう一つはエスタンプの制作方法だ。有名作家の原画をもとに版画作家が再制作して完成した版画に有名作家がサインを入れる。これは単純に売上げ増のために行われている。有名作家は本当に自分の作品だとは考えていないのではないか。 》

《 いかに日常の中で「見る」ということを疎かにしているか、ということだ。なにも「見て」なんかいなかったんだ!…何が言いたいかといえば、買ってきた便座カバーの形状がちがった…… 》